大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所秋田支部 昭和50年(ネ)147号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上の陳述は、次に付加するほか、原判決事実欄摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の付加陳述)

1  そもそも控訴人は、被控訴人に本件土地を贈与する意思はなかつたものであり、このことは次の事実からも明らかである。

(一) 被控訴人は、控訴人が横手市馬場崎町に住んでいた昭和二八年一二月一三日以前に本件土地の分筆登記等の登記申請手続を福田司法書士に依頼し、本件土地を控訴人からもらうべく画策し、その書類を控訴人のもとへ持つていき了承を得ようとしたが、その了承を得ることができなかつた。

(二) 控訴人は、控訴人と熊谷ミドリとの間の調停成立前に書かれた右ミドリ宛ての手紙(乙第一三号証)において、被控訴人に対し宅地を贈与する意思のないことを明言しているのに対し、右調停成立後に書かれた手紙(乙第九号証)においては、被控訴人に管理を頼んだことについて愚痴を言つているが、贈与については何ら触れられておらず、右調停成立後のその余の書簡(乙第一〇ないし第一二号証)においても贈与について触れているものはない。このように、調停成立前に贈与の意思のなかつた控訴人が、調停成立後土地建物の管理を委任したことを残念がつていたのに贈与について何も言わなかつたことは、控訴人が本件土地を贈与したことのないことを裏付けるものである。

(三) 控訴人の被控訴人宛ての書簡(甲第三号証の二)において、本件土地を使用させてくれるよう述べている点は、贈与の裏付けとなるものではない。控訴人は、土地の管理を被控訴人に任せていたのであるから、自己の土地であつても被控訴人に無断で第三者に使用を許諾することはできないため、右のような文面で使用許諾の通知をしたに過ぎない。仮に本件土地が被控訴人に贈与されていたとすれば、当然賃料についての約束がなければならないはずであるのに、右書簡においては賃料について一言も触れられていないのである。

2  控訴人と熊谷ミドリとの間の調停の調書には、調停で当事者が合意した内容と異なつたものが記載されている。

右調停調書の条項は、著しく曖昧で贈与の合意結果を要約確認したものとは見られない。

(一) 調停において控訴人が本件土地を贈与する意思を表示したとすれば、贈与した旨明確に書くのが当然であるのに、「小坂タカ所有部分」などと曖昧な記載を用いている。

(二) 本件土地が贈与された場合、分筆及び移転登記が必要であるから、分筆部分及び移転登記について明確な記載をすべきが当然であるのに、右調停条項においてはこの点について全く顧慮されていない。当時すでに分筆測量図(乙第一号証)ができていたのであるから、右の点を明確にすることは可能であつたのである。

(三) 右調停調書の別紙図面は、泉谷土地家屋調査士作成の改租図で、被控訴人の押印のほか控訴人の押印もあるが、控訴人はこのような図面を泉谷に作成させたことはないし、押印したこともない。右改租図から本件土地を約四五坪と計算したとすれば、調停とはいえ余りに概括的であり、正規の調停条項とは考えられない。ことに、調停の前年に被控訴人が分筆、移転登記を企て失敗している事実からすると、真実被控訴人が本件土地の贈与を受けたとすれば、被控訴人がそのことを調停委員会に話さないはずはなく、話したとすれば本調停条項のような曖昧なものが記載されるはずがない。

(四) そもそも財産処分禁止の調停で申立人の言い分を認めて成立した調停条項にかつこ書きのような記載のあること自体おかしいことである。被控訴人は、熊谷ミドリの後見人的立場で出席したもので、控訴人から本件土地の贈与を受けるために出席したのではないから、贈与を受けることは、申立ての趣旨並びに被控訴人の右後見的立場に反し右調停で本来なし得ないことである。

(被控訴人の答弁)

控訴人の付加陳述については争う。

三 証拠関係(省略)

理由

一  当裁判所も、原審と同様、被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容すべきものと判断するが、その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由欄の記載と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表一〇行目から一一行目にかけての「及び原告本人尋問の結果」を削る。

2  原判決三枚目裏一〇行目の「及び」から同一一行目の「各一部」までを「、原審及び当審証人熊谷ミドリの証言の一部(後記措信しない部分を除く。)、当審証人泉谷富太郎の証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果、原審及び当審における控訴人本人の尋問の結果の一部」と改め、同四枚目表一行目の「総合すると、」の次に「次の事実が認められる。すなわち、」を加える。

3  原判決四枚目表六行目の「右調停手続には」から同七行目の「参加出席し、」までを削る。

4 原判決五枚目表三行目に「明記したこと」とあるのを「明記した。ただ、右別紙図面は、右調停期日には作成されていなかつたため、後に提出することとされた。そして、被控訴人が、泉谷土地家屋調査士に依頼して右別紙図面を作成し、これを秋田家庭裁判所横手支部に提出したので、前記調停条項を内容とする調停調書が作成されるに至つた。その後、被控訴人は、右調停の際贈与を受けた土地を荷物置場等に使用していたが、昭和四六年になり前認定のとおり右土地を横手市二葉町一〇八番一二として分筆登記した。以上の事実」と改める。

5 原判決五枚目表三行目の「証人」から同四行目の「尋問の結果」までを「原審及び当審証人熊谷ミドリの証言部分並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果部分」と改める。

6 原判決五枚目表四行目の「措信できず」の次に「成立に争いのない乙第一ないし第五号証、当審証人泉谷富太郎の証言、原審における控訴人及び被控訴人各本人尋問の結果によると、被控訴人は、前記調停成立前の昭和二八年頃本件土地に該当する土地又はその一部を、控訴人から贈与を受けることを前提に分筆登記しようとしたことを窺うことができるが、右事実が認められるとしてもそのことから直ちに右認定を覆すことはできないし、また、成立に争いのない乙第九ないし第一三号証(書簡)の記載も前掲甲第三号証の一、二に照らすと右認定の妨げとなるものではなく、」を加える。

二 右のとおり原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を各適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例